
産業革命は都市を発展させ、工業の中心地を生み出しましたが、その一方で急激な人口集中という大きな問題を引き起こしました。都市に労働者が押し寄せたことで、住環境や労働環境の悪化、公衆衛生の崩壊、犯罪の増加など、多くの社会的課題が浮上したのです。
では、産業革命から学ぶ「人口集中」の問題点とは何だったのでしょうか? ここでは、「住宅不足とスラム化」「労働環境の悪化」「公衆衛生の危機」「社会不安の増大」の4つの視点から詳しく解説します。
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都市への急激な人口流入により、住居の確保が困難になりました。
工場が建ち並ぶ都市部では、人口が急増したにもかかわらず、住宅の建設が追いつきませんでした。その結果、労働者たちは狭く不衛生なアパートやバラック小屋に住むことを余儀なくされ、スラム街が形成されました。
都市部では家賃が高騰し、低賃金の労働者は最低限の生活すら維持するのが困難になりました。こうして、貧困層はより劣悪な環境で暮らすことを強いられ、貧困の連鎖が固定化していったのです。
都市の工場には大量の労働者が必要でしたが、その環境は過酷でした。
労働者が都市に殺到したことで、雇用者側は労働条件を厳しくしても働き手が絶えない状況となりました。そのため、工場では1日12〜16時間の長時間労働が当たり前になり、しかも賃金は低く抑えられました。
過密状態の工場では、安全対策が十分に取られておらず、機械による事故や負傷が頻発しました。特に、蒸気機関を使った工場では、高温の蒸気や回転する機械に巻き込まれる危険が常にあったのです。
人口が密集した都市では、公衆衛生の管理が追いつかず、疫病が流行しました。
産業革命期の都市では上下水道が整備されておらず、排水やゴミがそのまま路上に放置されていました。特にスラム街では汚水がたまり、悪臭が充満し、病原菌が蔓延する環境が生まれました。
不衛生な環境の中で、コレラや腸チフス、結核といった感染症が大流行しました。19世紀のロンドンでは、上下水道の整備が遅れたためコレラによる死者が多数発生し、公衆衛生の必要性がようやく認識されるようになったのです。
人口が集中した都市では、社会不安や犯罪が増加しました。
スラム街では貧困が深刻化し、盗みや暴力事件が日常的に発生するようになりました。治安が悪化した地域では、夜間の外出が危険になるほどで、都市全体に不安が広がっていきました。
劣悪な労働環境と低賃金に対する不満が高まり、19世紀には労働者による暴動やストライキが頻発しました。特に、1811〜1817年にかけてイギリスで起こったラッダイト運動では、労働者が工場を襲撃し、機械を破壊する事件が多発しました。
産業革命による人口集中の問題点は、「住宅不足とスラム化」「労働環境の悪化」「公衆衛生の危機」「社会不安の増大」の4つに集約されます。急激な都市化によって労働者が過密状態になり、住居の不足や劣悪な環境がスラム化を引き起こしました。また、長時間労働や低賃金が当たり前となり、感染症の流行や犯罪の増加が社会問題として浮上したのです。
こうした問題を解決するために、19世紀後半からは公衆衛生の改善や労働法の制定が進められました。しかし、産業革命期の都市は、まさに「発展の裏で深刻な社会問題を抱えた場所」だったといえるでしょう。