
アメリカにおける産業革命の始まりは、一般的に1790年代から1830年代の間とされています。イギリスで始まった産業革命(18世紀後半)よりもやや遅れてスタートしましたが、19世紀後半には急成長を遂げ、世界最大の工業国へと発展していきます。
では、アメリカの産業革命はどのように始まり、どの時点で本格化したのでしょうか? 「初期の動き」「工業化の加速」「本格的な産業大国への成長」の3つのフェーズに分けて解説していきます。
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アメリカの産業革命の火付け役となったのは、イギリスからもたらされた技術と、新たな経済環境でした。
アメリカの産業革命は、繊維産業から始まりました。1790年、サミュエル・スレーター(1768-1835)がイギリスからアメリカへ移住し、ロードアイランド州に初の水力紡績工場を設立しました。スレーターはイギリスの機械技術を秘密裏に持ち込み、アメリカに工場制生産を導入したのです。
工業化を進めるためには、物資の輸送が不可欠です。1825年、ニューヨーク州でエリー運河が開通し、五大湖と大西洋が結ばれました。これにより、原材料や製品の輸送が効率化し、産業発展の大きな後押しとなりました。
この時期になると、アメリカの工業化が一気に進み、さまざまな産業が発展し始めます。
1830年代には鉄道が本格的に整備され、国内の交通インフラが急速に発展しました。特に、ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道の開通(1830年)は、アメリカの産業発展を象徴する出来事でした。鉄道によって、西部の資源を東部の工業地帯へ輸送することが容易になり、国全体の経済が活性化したのです。
1831年、サイラス・マコーミック(1809-1884)が機械式の麦刈り機を発明し、農業の生産性が向上しました。さらに、1837年にはジョン・ディアが鋼鉄製のすきを開発し、農作業の効率化に貢献しました。こうした技術革新が、アメリカの工業と農業の両方を支えたのです。
南北戦争(1861-1865年)を経て、アメリカはさらに工業化を加速させ、第二次産業革命へと突入します。
1860年代以降、アメリカでは鉄鋼と石油産業が急成長しました。アンドリュー・カーネギー(1835-1919)は鉄鋼業を発展させ、アメリカのインフラ整備を支えました。また、ジョン・D・ロックフェラー(1839-1937)のスタンダード・オイル社が石油産業を独占し、自動車産業の成長を後押ししました。
19世紀後半には、大量生産方式(アメリカン・システム)が確立されました。特に、ヘンリー・フォード(1863-1947)が導入したベルトコンベア方式は、自動車産業だけでなく、さまざまな工業製品の生産性を向上させました。
アメリカの産業革命は1790年代から始まり、19世紀後半には本格的な工業大国へと成長しました。最初は繊維産業からスタートし、鉄道や農業の機械化を経て、やがて鉄鋼・石油・大量生産の時代へと突入していったのです。
こうしてみると、アメリカの産業革命は、単なる技術革新ではなく、世界の産業の中心を担う国家へと変貌するプロセスだったといえるでしょう。