
トーマス・エジソン(1847 - 1931)と円筒式フォノグラフ
録音と再生の技術が登場し、音楽は一回限りの舞台から複製・保存・流通される商品へと拡大。コンサート体験や音楽消費のあり方を工業化時代に合わせて変えた転換点。
出典:Photo by Levin C. Handy / Library of Congress / Wikimedia Commons Public domainより
産業革命は人々の暮らしや社会を変えただけでなく、音楽のあり方にも大きな変革をもたらしました。楽器の改良で表現が豊かになり、コンサートホールが都市の文化を彩る一方で、録音技術の登場によって音楽は「その場限りの体験」から繰り返し楽しめる商品へと変わっていったんです。
この記事では、産業革命が音楽に与えた影響を「演奏の変化」「録音技術と音楽の大衆化」「音楽産業の誕生」という3つの視点から見ていきましょう。
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まずは産業革命によって生まれた「音を奏でる場」の変化から見ていきます。
産業革命で金属加工技術が向上し、ピアノや管楽器の性能が大幅にアップしました。これにより演奏表現が広がり、力強く豊かな音色をホールいっぱいに響かせることができるようになったのです。
改良された楽器を使って演奏される交響曲は、よりダイナミックで壮大なものになりました。ベートーヴェンやワーグナーの作品はまさに「産業社会のパワー」を音で表現した存在といえるでしょう。
都市に専用のコンサートホールが次々と建設され、音楽は王侯貴族だけの楽しみではなく、多くの市民が共有できる文化となりました。
次に、産業革命後半に登場した画期的な発明「録音技術」を見てみましょう。
1877年、トーマス・エジソン(1847 - 1931)は円筒式フォノグラフを発明しました。これにより人々は音を保存し、繰り返し聴けるようになったんです。音楽が「生演奏の一回限り」から解放された瞬間でした。
録音された音楽は家庭にも届き、都市の娯楽だけでなく日常生活の一部として楽しめるようになりました。つまり、音楽の大衆化が一気に進んだんです。
録音技術は教育の現場にも導入され、歌や演奏の練習に使われました。印刷物の楽譜とあわせて、誰もが音楽を学べる時代が開かれていったのです。
最後に、録音と再生の技術が生んだ「音楽産業」について見ていきましょう。耳で楽しむ芸術が、初めて“形ある商品”として広がっていった瞬間なんです。
エジソンの蓄音機の発明をきっかけに、ベルリナーが改良を重ねて円盤式レコードを開発しました。これによって音楽は紙の楽譜ではなく、実際の演奏をそのまま届けられるようになったんです。
やがてレコード産業が誕生し、工場で大量生産された音楽が店頭に並びました。これまで生演奏でしか味わえなかった音楽が、誰の家にも届く時代がやってきたんですね。
録音が可能になったことで、一流歌手や名演奏家の声や音色を遠く離れた人々も楽しめるようになりました。舞台に行けない人でも、家で同じ体験を味わえるようになったんです。
その結果スター音楽家の誕生が進み、彼らの名前や歌声がブランドのように価値を持つようになりました。音楽は芸術であると同時に、巨大なマーケットを生み出す商品になったんですね。
さらに印刷技術や広告の発展が後押しし、ポスターや雑誌広告を通じて「このレコードを買えば流行の一員になれる」という宣伝が広まりました。音楽は単なる娯楽を超えて、消費文化を支える力になっていったんです。
こうして音楽が「産業」として確立し、現代の音楽ビジネスの基盤が形づくられました。コンサート、レコード、広告──そのすべてが一体となって、都市の文化を動かすエンジンになっていったのです。
こうしてみると、産業革命は音楽の形を根底から変えてしまったんですね。楽器やホールを通じて生まれた大きな響き、そしてエジソンのフォノグラフによる録音技術。それらが合わさって、音楽は「芸術」であると同時に「商品」として世界に広がっていきました。まさに、産業革命は「音楽の近代」を切り開いた大事件だったのです。
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